わたしが競馬を始めたのは今の会社に入社してからだった。週末をもてあましていると先輩に話したら、競馬場に連れて行ってくれたのだ。
わたしははじめての競馬場に興奮していた。熱気に満ちた雰囲気と馬の匂い。いっぺんに虜になってしまった。それ以来ほとんど毎週競馬場に来ている。
たいてい一人だ。加奈を連れてくることもあるけれど、一人でのんびりしたいときに来ることにしている。馬券は買うけれど、当たった事はない。もし当たったら、金額が少なくても会社を辞めようと決めている。
馬券を当ててお金が欲しいわけではない。自分の賭けた馬が会社を辞めるきっかけをくれることを待っているのだ。
でも、なかなか当たらない。会社は辞められない。加奈に一度その話をしたらすごく嫌な顔をした。
「そんな大事なこと、馬に託すなんて。」と軽蔑したような顔をして、私を見た。分かっていない、とわたしは思う。何かに背中を押して欲しいと思うことは誰にでもあるじゃないか。
